サブスクビジネスに関わり15年。継続率を高めるリテンションマーケティングで成功確率を上げる方法

サブスクビジネスに関わり15年。継続率を高めるリテンションマーケティングで成功確率を上げる方法 データ分析

「継続率を上げたいのに、何をやっても効果が出ない」

サブスクビジネスに携わる方なら、一度はこの壁にぶつかったことがあるのではないでしょうか。

私はデジタルメディアや食品のサブスクビジネスのリテンションマーケティングに15年関わってきました。その中で、継続率を改善し年間数千万円規模のビジネスインパクトを生み出した経験もあれば、「データを見て正しいことをやったはずなのに、まったく効果が出ない」という苦い失敗も数多く経験してきました。

本記事では、サブスクリプションサービスにおける特定顧客セグメントの継続促進を想定し、現場経験から得たリテンションマーケティングの成功確率を上げる方法を、3つの柱でお伝えします。

本記事のターゲット

  • サブスクビジネスのマーケティング担当者
  • サービスの継続率を高めたい企業担当者
  • モノの継続購買率を高めたい企業担当者

リテンションマーケティングの「3つの柱」

リテンションマーケティングとは、「サブスクリプションビジネスにおける継続率」「都度購入ビジネスにおける継続購買」を促進する活動と捉えられがちですが、お客様がお金を支払ってでも続けたい関係性を築き上げることは至難の業です。

これまで私も多くの施策を実施してきましたがその中でも成功確率が上がる3つの柱があります。

それが「Resolution(解像度)」「Content is King」「Onboarding」の考え方です。

  1. Resolution(解像度):「お客様」の解像度を上げ、お客様視点で仮説を導く
  2. Content is King:ビジネスモデルが成立するコンテンツを発見する
  3. Onboarding:契約初期に「価値体験」をしっかりストレスなく届ける

以降でそれぞれの実施方法について解説するとともに、私自身の失敗談から学んだ「相関関係と因果関係の落とし穴」についても共有します。

1.「お客様」の解像度を上げ、お客様視点で仮説を導く(Resolution)

リテンションマーケティングのすべての出発点は、ターゲット顧客の解像度です。

「継続いただいているお客様は有料機能の利用頻度が多いからではないか」

「継続されないお客様は、レシピ記事を読んでいないからではないか」

このように、問いを立てることは非常に大切なことです。ゆえに最初から仮説に基づき集計・分析を始める方も多いでしょう。

しかし、一度手を止めてください。

施策担当者は、自分の担当領域にバイアスのかかった仮説を持ってしまいがちです。

私もそうでした。アプリの記事コンテンツを担当していれば、その記事に愛着を持つのは当然ですし、その切り口で自らの成果を語りたくもなります。ただ、まずはお客様を理解することから始めるべきです。そうすることで、自分が手がけているコンテンツの見方が変わり、新たな仮説発見につながることが多いのです。

特に有効なアプローチは、「定量による行動追跡」と「定性による憑依(ひょうい)」の組み合わせです。

1-1. 定量による行動追跡

最初にやるべきは、継続しているお客様と継続されていないお客様の行動の違いを、行動ログデータを追跡し比較することです。

それぞれ10名ずつサンプル抽出し、同期間にどんな利用行動をしていたかを並べて見るだけでも、

・継続されているお客様は契約直後に特定のコンテンツに触れている

・継続されないお客様は基本機能の設定すら完了していない

といった発見が得られます。

ポイントは、仮説検証を急ぐのではなく、まず「観察」から入ること。ログを丁寧に追いかけるだけで、その後の分析の方向性が大きく変わります。

観察によって仮説が覆された実例

あるビジネス学習サービスでの事例です。私が最初に持っていた仮説はこうでした。

「継続されないお客様は、ビジネス事例記事を読んでいないからではないか」

しかし継続顧客と非継続顧客のログをそれぞれ10名ずつ並べて観察すると、まったく別の事実が見えてきました。継続しているお客様の多くは、ビジネス事例記事の有無にかかわらず、ビジネス事例記事も含まれる「ビジネススキル」というカテゴリ全体を幅広く閲覧していたのです。

もし最初の仮説のまま集計を進めていれば、「ビジネス事例記事の閲覧数が継続率と相関している、ビジネス事例記事を推奨しよう」という施策につながりがちです。しかし行動ログを丁寧に観察すると、まったく違う解釈に至ることがわかります。

リン
リン

お客様は「ビジネス事例記事」を見たくてサービスを利用しているのではなく、「ビジネススキルを学びたいという強い想いが先行した先に、たまたまビジネス事例記事があっただけ」だったんだね

1-2. 定性による憑依(ひょうい)

ここまで定量データの重要性をお伝えしましたが、データだけでは見えない課題もあります。

行動ログや集計値は「何が起きているか」は教えてくれますが、「なぜそうなっているか」「お客様がどう感じているか」までは教えてくれません。

そこで私が実践しているのが、「お客様が普段触れる外部環境に、自分自身を近づけてみる」という方法です。

リン
リン

「なぜこの段階では顧客インタビューをしないのか?」と思う方も多いかと思います。

仮説のなきインタビューを実施することは、お客様の貴重な時間を漠然と使うことになり、かえって非効率で失礼にあたります。まずは自力で仮説を立て、インタビューは「仮説の検証」に使うのが正しい順序です。

俳優の役作りに近いかもしれません。ターゲット顧客が日々どんな生活を送り、どんな情報に触れ、どんなことにお金を使っているのかを、1〜2週間ほど自分自身で体験するのです。

この実践において、私が特にどのターゲットに対しても有効だと感じている方法が書店での情報収集です。

大きな書店にはターゲット層ごとの棚割りが存在します。「新卒・入社1〜3年目向け」「主婦向け料理・生活」など、書店のPOPや棚の構成そのものが、ターゲットの関心地図になっているのです。人気書籍のタイトルや特集テーマを眺めるだけで、「今この層が何に悩み、何を求めているか」のトレンドを肌感覚で掴めます。

リアルな店舗に足を運べない場合は、オンラインでも同様のリサーチが可能です。

私が主にチェックしているのは以下のオンライン書店です。

  • Amazon:利用者数の多さから「世の中の大きなトレンド」を幅広く把握する
  • セブンネットショッピング:年代別ランキングが掲載されており、20代・30代など特定年代の嗜好を絞って確認できる

では、具体的にどう活用するか。2つの事例でご紹介します。

(例①)新卒・若手ビジネスパーソンをターゲットにした場合

大手企業が集まるエリアの書店には、新卒層に向けた棚割りがされていることが特に多く、その人気書籍を確認するだけでターゲットの関心トレンドを素早く把握できます。

「社会人1年目は、まずビジネスマナーから学ぶんだな」
「自己研鑽や資格取得を将来投資と考えている一方、NISAやiDeCoには苦労している人も多そうだ」

Amazonやセブンネットで20代の年代別ランキングをのぞくと、さらに解像度が上がります。「20代男性は乃木坂46、20代女性はSnow Manが人気」といった娯楽の傾向まで見えてくることもあり、コンテンツの打ち出し方やトーンを考える上で思わぬ気づきが得られます。

「私の記事と同じ内容が、新卒向けの人気書籍ではずっとわかりやすい表現で書かれていた。20代向けには、ビジネススキルの導線そのものを前方で目立たせ、他の書籍で扱っているように体系的かつ丁寧な説明にしつつ、文章量を減らして忌避感を減らすべきかも」

こうして同じ情報環境に身を置くことで、自分たちのコンテンツ・UXに何が足りないかが体感として見えてくるのです。

(例②)主婦層をターゲットにした場合

私が主婦層(特に中年層)向けの施策を担当した際は、彼女たちが読んでいる書籍・雑誌・テレビを意識的に消費し、買い物にも出かけました。

  • 主婦向け雑誌(オレンジページ、レタスクラブなど)
  • ファッション誌
  • 主婦層に人気のテレビ番組
  • 同じスーパーで同じ時間帯に買い物をしてみる

すると、

「この時期は食物繊維や腸活が流行るんだな」
「この時期には旬の野菜が安くなり、美味しく節約できるんだな」
「夏前のダイエット時期には、運動器具への関心が高まるんだな」

こうして、ターゲットユーザーの消費傾向と、その背景にある生活が体感的に分かってきます。

解像度を上げることにより得られる最大の示唆

お客様の行動を追跡し、自らもお客様と同じ環境に身を置くことで、因果に迫る仮説を立案できるようになります。これが、施策の精度を飛躍的に高めてくれます。

顧客解像度=「ログによる行動の事実」×「お客様になりきって得る心情の理解」

どちらか一方では足りません。両輪で回して初めて、「お客様」が立体的に見えてきます。

こうして集まった仮説の中から、「強いペインを示唆するもの」を数件に絞り込み、相関分析とインタビューで検証する流れへと進みます。

2. ビジネスモデルが成立するコンテンツを発見する(Content is King)

2-1. 「強いペイン」はコンテンツで解消される

お客様が購入・来訪するきっかけとなる記事がない抜け殻の状態のサービスで、コミュニケーション一本槍で継続率を高めようとするのは無謀です。

リテンションマーケティングの大前提として、そもそもビジネスモデルが成立するコンテンツがなければ、どんな施策も効果を発揮しません。

では、ビジネスモデルが成立するコンテンツとは何か。それは、ターゲット顧客の「強いペイン」を解決するコンテンツです。

強いペインとは、お金を出してでも解決したい課題のことです。

「あったら便利」「少額・無料で代替できそう」程度の課題では、お客様は継続的にお金を払い続けていただけません。

「これがないと困る」「多少お金を払ってでも解決したい」という切実な課題を特定し、その解決に資するコンテンツを見つけることが、すべての出発点になります。

図1. 強いペインを解決するから課金

2-2. 第1章の仮説から「強いペイン候補」を数件に絞り込む

第1章で行動ログを観察し、お客様になりきることで、さまざまな仮説が手元に集まったかと思います。

ビジネス学習サービスを例に考えてみましょう。

ログ観察から「継続顧客はビジネススキルカテゴリを幅広く閲覧している」という事実が見えており、また書店やAmazonでの情報収集から「新卒ビジネスパーソンは自己研鑽への強い意欲を持ちながら、体系的な学び方が分からずに悩んでいる」という感覚が得られました。これらを組み合わせると、以下のような仮説群が生まれます。

  • 「ビジネススキル系コンテンツを定期的に閲覧するお客様は継続率が高いのではないか」
  • 「ビジネススキル系コンテンツの中でも難易度が低く基礎的な理解を促すコンテンツを閲覧するお客様が継続率が高いのではないか」
  • 「記事を閲覧した後に必要に応じて保存しているかどうか、継続の分岐点になっているのではないか」
  • 「スマホから平日の通勤・昼休みなど決まった時間帯に継続利用しているお客様は、学習が生活ルーティンに組み込まれており、継続率が高いのではないか」

これらの仮説のうち、「強いペイン(お金を出してでも解決したい課題)を解消している可能性が高いコンテンツ」が定量的に継続と相関関係があるのか検証するのが、次のステップです。

2-3. ステップ①:ログ相関で候補仮説をスクリーニングする

お待たせしました。

このタイミングで仮説の机上検証としてデータ集計を実施します。抽出された候補仮説について、利用実績データを使って相関を確認します。

利用回数と継続率の相関を取る

相関分析によって、仮説として挙げた候補のうち数字として「効いている」ものと、そうでないものを選別します。

例えば「ビジネススキル系コンテンツを定期的に閲覧するお客様は継続率が高いのではないか」「ビジネススキル系コンテンツの中でも難易度が低く基礎的な理解を促すコンテンツを閲覧するお客様が継続率が高いのではないか」という点について相関関係を分析してみましょう。

すると、ビジネススキル系コンテンツを幅広く閲覧しているお客様よりも、難易度が低く基礎的な理解を促すコンテンツを閲覧しているお客様の方が、継続率との相関が強い傾向が見られました。また、閲覧回数の少ないお客様も多く、改善施策を促す対象規模も大きく確保できそうです。

「何を読むか(カテゴリ)」よりも「どう学ぶか(難易度・ステップ設計)」が継続の分岐点になっている可能性が浮かび上がってきます。

次のステップは、この相関をインタビューで因果として確かめることです。

リン
リン

集計時のリーケージ(情報漏洩)に注意しましょう

集計対象期間は必ず「継続率を測る基準時点より前」に設定してください。

例えば2025年1月時点の既存顧客の「継続率」を測るなら、利用回数は2024年12月以前で集計する。1月や2月の利用実績を入れてしまうと、「継続している人だから利用が多い」という当たり前の結果しか出ず、施策につながる示唆を失います。

2-4. ステップ②:インタビューで因果関係を確認する

2-3の検証は相関関係が検証できたに過ぎません。ここからが本当の勝負です。顧客インタビューで「なぜそうなのか」の因果を直接確認します。

図3. 相関関係と因果関係

インタビューを行う際に意識して欲しいのは、「カスタマージャーニーマップ」です。

お客様が契約される直前〜継続利用に至るまでの時間軸を各フェーズに区切り、それぞれのフェーズでの目的と課題を洗い出していきます。

また、特に先ほど相関関係が導かれた課題については、施策案やコンテンツ案も数案持ち込み直接フィードバックをいただく場にできると尚良いです。

リン
リン

インタビューは一般的に、①契約前の状況・課題の確認 → ②契約のきっかけ・目的 → ③実際の利用体験と価値感 → ④利用に伴う課題感 → ⑤施策案へのフィードバック、という流れで進めます。

ご自身のビジネスモデルやお客様の状況に応じて適宜調整し、因果関係の確からしさをお客様の声から検証してみましょう。

ただし、お客様の言葉をそのまま受け取るっことは危険です。「便利だから使っています」という回答の裏には、必ず具体的な利用シーンと解決されている課題があります。

「具体的にどんなときに便利だと感じましたか?」
「直近1週間で使ったタイミングを思い出して教えてください」

このように5W1Hを明確にすることを意識しながら深掘りすると、抽象的な感想の奥にある「真のペイン」が見えてきます。

Content is King に徹底的にこだわる

解像度の高い仮説群について定量的な相関分析を実施し、定量的なインタビューで因果関係を確認してきました。

この徹底した深掘りをした結果得られたペインこそ解決すべき課題です。さらにはそのペインを解決するものの多くは、コンテンツに帰着することが多いです。

私はお客様が神様だとすると、コンテンツは2番目に重要、言うなれば「コンテンツは王様(Content is King)」であると考えています。モノが陳列されていない店舗でコミュニケーションを徹底しても意味がないのです。

3. 契約初期に「価値体験」をしっかりストレスなく届ける(Onboarding)

3-1. なぜ契約初期が勝負なのか

第2章で強いペインを解決するコンテンツを用意したとしても、顧客がその価値に気づかなければ意味がありません。

特に重要なのが契約初期(1〜3ヶ月)です。多くのサブスクサービスでは、この期間に解約が集中します。契約初期の短期間の間に「購入目的を達成できそう」「継続する価値がありそう」と実感してもらえるかどうかが、その後の継続率・LTVを大きく左右します。

ひいては上記の傾向がある中で、契約後N日以内の行動に介入できる施策の方が、費用対効果が生まれやすい傾向があります。

その理由の一つが、訴求に対するリアクション率が高いことです。なぜなら契約直後であれば必ず目にとまる上、お客様はお金を支払った最も熱量が高い状態であるためです。

皆さんも経験があるのではないでしょうか。ゲームソフトを買った時にセットアップの方法やどんな遊びができるのかチュートリアルを見ることがあるかと思います。一方でその後に通知される情報には目もくれず塩漬けにしていることも。。。

そのため状況契約直後に感謝とともにサービスのコンテンツ・機能を訴求した場合に、一応確認いただけることが多いのです。

ただ難点もあります。既存顧客を対象としない分、施策の対象規模が小さくなりがちです。しかし、「既存顧客は継続率が高い状態であるため改善余地が少なく、開封いただくなど手間が発生しリアクション率が低い点」を加味し、ROIや利益観点で費用対効果を考えた場合に優先度が高いのがオンボーディング(契約初期)となることが多いです。

3-2. 価値体験を届けるオンボーディング設計の基本

契約初期の施策で最も重要なのは、「お客様が何を求めて契約したのかを、手間なく把握し、すぐに価値を届けること」です。そのための設計において、以下の2点を押さえておく必要があります。

① 目的把握のカウンセリング設計

契約直後という最も熱量が高いタイミングで、お客様の利用目的・興味関心を短い質問で把握するカウンセリング(アンケート・選択UI)を挟みます。この情報をもとに初期画面・レコメンド・コミュニケーションをパーソナライズすることで、「自分に合ったサービスだ」という第一印象を素早く与えられます。

質問数は、3〜5問以内を目安にしてください。多すぎると離脱率が上がり、本末転倒になります。

リン
リン

契約初期の行動を踏まえて目的を予測し、コンテンツをパーソナライズすることを試みる方がいますがお勧めしません。

契約初期は行動がほとんどないため予測が困難(コールドスタート問題)な上、コミュニケーションを取れる機会を逃していることになります。

② 「最初の価値体験」までの導線をシンプルに設計する

第2章で発見した「強いペインを解決するコンテンツ」に、契約後できるだけ早い段階で到達できる導線を設計します。機能が多いサービスほど、お客様は「何から始めればいいか」が分からず迷子になります。契約初期は機能の網羅的な紹介を大量に行うより、「まずこれを体験してほしい」に絞ったコミュニケーションが効果的です。

リン
リン

・初回ログイン直後に大量の機能説明を並べる
・全顧客に同一のウェルカムメールを一斉送信する
・「お役立ち情報」という名の宣伝通知を矢継ぎ早に送る

これらはいずれも、お客様の「目的」ではなく「サービスの都合」を押しつける設計です。意図せずダークパターンに近づいていないか、常に点検する習慣を持ってください。

3-3. カウンセリング導入によるパーソナライズ事例

Netflix

Netflixは契約と同時に、お好みの作品を3つ選択する画面があります。

実際にお好みの作品サムネイルを3つ選択して続行すると、その選択内容に応じてトップ画面がパーソナライズされます。

まさにコンテンツを観たいからこそ契約されたお客様に、目的に即したコンテンツがすぐに提供されるよう設計されたベストプラクティスと言えるでしょう。

サービスを契約した最も熱量が高いタイミングで、お客様の目的を手間なく汲み取るカウンセリングが重要であることがわかります。

日本経済新聞社

お客様の目的を手間なく汲み取るカウンセリングを入れている事例として、日本経済新聞社の日経電子版があります。

「利用動機」「日経朝刊の利用頻度」「閲覧時のUIデザイン」の3つをカウンセリングすることで、その後の記事レコメンドやユーザーコミュニケーションをパーソナライズしています。

実際に「登録後の3ヶ月継続率が5ポイントほど改善」している点もかなり評価できる施策と言えるでしょう。

【失敗談】相関関係だけを見て施策を打った結果

最後に、私自身の失敗談を共有します。

「正しそうに見えた」施策

データ分析を進める中で、こんな相関を発見しました。

「コンテンツの消費量・消費回数が多いユーザーは、継続率が高い」

これは多くのサブスクサービスで見られる典型的な相関です。「であれば、消費量を増やせば継続率が上がるはず」——そう考え、以下のような施策を打ちました。

  1. プッシュ通知の頻度を上げる:とにかくアプリを開いてもらう
  2. 契約直後に記事ページへ強制遷移:最初から利用実績を作る
  3. 未利用日が続いたらリマインドアラートを強化

いわば、「利用回数をハックする」施策です。

結果は散々でした。継続率はまったく改善せず、リマインド強化に至ってはむしろ継続率が悪化しました。

なぜか。

お客様は確かにコンテンツを「開いて」はいました。しかし、意図せず開いてしまっただけだったのです。開いた後に読まない、確認しない。形式的な「利用」は増えましたが、本質的な価値体験は1ミリも増えていなかったのです。

学び①:相関関係 ≠ 因果関係

この失敗から学んだのは、相関関係と因果関係は別物だということです。

そんなこと当たり前じゃないかと思う方も多いと思います。

しかし何か施策をしなければならないと焦っているとやってしまいがちなミスです。

「コンテンツ消費量が多い → 継続率が高い」という相関は事実です。しかし因果関係は逆で、

「サービスに価値を感じている → 結果としてコンテンツ消費量が多くなる」

だったのです。

つまり、コンテンツ消費量は「結果」であって「原因」ではなかった。原因に働きかけずに結果だけを操作しようとしても、当然ながら効果は出ません。

学び②:コミュニケーションは因果の前提を覆す

そして、もう一つ重要な学びがあります。それは、因果関係が強く想定されるシチュエーションであったとしても、その因果を良くも悪くも覆すのが「コミュニケーション」だということです。

リマインド強化が継続率を悪化させたのも、まさにこれです。プッシュ通知というコミュニケーションの強度・トーンが、本来あるはずの「コンテンツ → 価値実感 → 継続」という因果の前提を破壊してしまったのです。

たとえば以下の極端な例で考えてみてください。

「りんごの購入量が継続購買に強く相関している。このりんごは他店では扱っておらず来客のきっかけになっており、因果関係が強く働いている」

という事実があったとしても、以下の2つのコミュニケーションに違いが起きたらどうでしょうか

  • そのりんごを 「お客様に感謝を述べながら手渡しして売る」
  • そのりんごを 「お客様に向かって乱暴に売る(実際にはしませんが…)」
図. コミュニケーションによる因果の断絶

顧客体験の評価は天と地ほど異なることがわかります。

相関と因果だけを見て単純に施策を考案すると、このような「ダークパターン」に陥りやすいのです。

ダークパターンとは、ユーザーに意図しない行動を取らせるUI/UX・コミュニケーション設計のことです。一時的に数字は上がっても、顧客体験を毀損し、長期的には逆効果になります。

上記のは極端な例でしたが、実際の現場においても「良いコンテンツを作ったが、お客様に迷惑な時間帯にプッシュ通知を打つ」「良い商品を作ったが、笑顔で対応せず顧客心象が悪い」などは稀に目にすることがあります。

担当者の、お客様に接する一挙手一投足が、因果関係を超えて顧客体験を良くも悪くもする

私もこの言葉を胸に、日々のマーケティング活動を行なうようにしています。

まとめ

本記事では、サブスクビジネスの継続率を高めるリテンションマーケティングについて、3つの柱と、現場で経験した失敗談から得た教訓をお伝えしました。

3つの柱の振り返り

1. Resolution:「お客様」の解像度を上げ、仮説を導く

ターゲット顧客の置かれている環境に自分を近づけ、彼らが触れている情報を消費する。ログデータの観察と「お客様になりきる」ことで、データだけでは見えない「なぜ」が見えてくる。

2. Content is King:ビジネスモデルが成立するコンテンツを発見する

「お金を出してでも解決したい強いペイン」を特定し、その解決に資するコンテンツを発見・開発する。これがすべての土台である。

3. Onboarding:契約初期に価値を届ける

契約直後という熱量が最も高いタイミングに、お客様の目的を手間なく汲み取り、強いペインを解決するコンテンツを素早くご案内する。Netflix・日経電子版の事例が示すように、パーソナライズされたオンボーディング設計が継続率を大きく左右する。

そして最後に、忘れないでほしいことが一つあります。

顧客への一挙手一投足のコミュニケーションによって、相関も因果も、伸ばすことも壊すこともできる。これこそが、マーケティングである。

本記事が、あなたのリテンションマーケティングの成功確率を、少しでも引き上げるきっかけになれば幸いです。

参考

  • Netflix(Netflix, Inc.)(https://www.netflix.com/)
  • 「日経電子版のユーザーオンボーディング施策」── CX Clip by KARTE(プレイド)(https://cxclip.karte.io/cxstory/experience_insights/experience_insights_11/)

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