現代ビジネスにおいて、データサイエンススキルは必須となっています。企業はデータ蓄積から一歩進み、データ駆動型の意思決定へと移行しています。この流れを受け、データサイエンティストのみならずマーケティング担当者にもデータ分析スキルが求められるようになりました。
2024年度からスタートした「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」により、高校生にもデータサイエンスを学ぶ機会が広がっています。本記事では、DXハイスクール推奨科目である「情報II」の教材内容をプロのデータサイエンティストの視点から分析し、その価値を探ります。
本記事のターゲット
- データサイエンティストを目指す高校生
- データサイエンスに興味がある社会人
- DXハイスクールの内容・データ活用について知りたい方
サマリー

1. DXハイスクール科目「情報II」とは
「情報II」は、2022年度から高等学校で実施されている新学習指導要領に基づく情報科の科目です。「情報I」が必修科目として基礎的な情報活用能力を育成するのに対し、「情報II」は発展的な内容として、データサイエンスやプログラミング、情報システムについてより深く学ぶための選択科目です。
DXハイスクール事業では、この「情報II」を中心に、デジタル社会に対応できる人材育成を目指しています。具体的に「情報II」では以下の4つの分野を学ぶことができます
- 情報社会の問題解決 – データの活用による課題発見・解決
- コミュニケーションとコンテンツ – 効果的な情報デザインと表現
- 情報とデータサイエンス – 統計的手法や機械学習の基礎
- 情報システムとプログラミング – アルゴリズムやデータベース、情報セキュリティ
文部科学省が提供する教員研修用教材では、これらの内容が体系的にまとめられており、授業での活用だけでなく、独学にも適した内容となっています。特にデータサイエンスに関する部分は、実社会での活用を意識した実践的な内容が豊富です。
DXハイスクールに採択された学校では、この「情報II」の内容を基盤としながら、より実践的なプロジェクト学習や外部連携を取り入れ、先進的なデジタル教育を展開しています。学校によっては、地域企業と連携したデータ分析プロジェクトや、実際の社会課題解決に向けた取り組みも行われています。
1. データサイエンスの実践的知識の獲得
とっつきにくい機械学習の理論も簡潔にまとめられており、理解しやすい構成になっています。特に、データサイエンティストとして重要な機械学習の基本概念やアルゴリズムが明確に説明されており、初学者でも挫折しにくい内容となっています。
さらに、表計算ソフトを用いた実践問題も豊富に用意されており、小規模データの分析を現場で実践できるスキルを習得することも可能です。実際のビジネスシナリオを想定した問題も存在したりなど、データの収集、整理、分析、そして結果の可視化を意識した学習も期待できます。

条件付き確率や線形代数などの大学数学の表現が一部潜んでおり、少し苦戦することもあるかもしれませんが、要点を掴んだ解説で非常にわかりやすいです
2. データサイエンスの周辺知識の獲得
データサイエンスに関わる基本的なプログラミングや機械学習ライブラリについても、「情報II」で扱われています。PythonやJavaScript、Rなどの主要なプログラミング言語に加え、データベース言語(SQL等)を使ったサンプルコードが豊富に掲載されており、初心者でも手を動かしながら読み進めることができる構成になっています。これにより、自らWebサイトの情報を取得したり、大規模データにアクセスして機械学習を適用するなど解決できる問題の幅が広がります。
さらに、データ型や基本的な機械学習ライブラリの使い方などつまずきポイントに加え、プロジェクトマネジメントやバージョン管理も一部フォローする幅広さです。単なるプログラミングスキルだけでなく、プロジェクトの全体像を理解し、効率的に作業を進めるためのスキルも身につけることが期待できます。

高校で、Web APIやスクレイピングによる大規模データの取得方法を学ぶ機会があるなんて、ひと昔前では信じられないくらい高度な教育だね
3. ビジネス・エンジニアリング知識の獲得
データサイエンティストはデータサイエンススキルの充足のみではビジネスで活躍できません。データサイエンティスト協会の定めるスキルセット[3]では、「データサイエンス」「ビジネス力」「データエンジニアリング」を有するプロフェッショナルと定義されています。情報Ⅱでは「ビジネス力」「データエンジニアリング」に関わるマーケティング企画やシステム開発などのプロセスについてもざっくりと学ぶことができるため、ビジネスの意思決定やシステム構築に役立つ知見を得ることもできます。

例えば「ビジネス力」を培う上で、マーケティング企画プロセスを理解することは欠かせません。教材内では、問題の発見からメディアプランの検討、コンテンツの制作と改善に至るまで触れられており、マーケティング現場と伴走しながら価値を創出するイメージも湧きやすい内容になっています

実際のマーケティング現場では、プロセスを理解しても成果に直結させることは非常に難しい。データを活用し「人を動かす」上でのハードルを知る上では、ぜひ企業データサイエンティストとの接点を設けることが大切です
最後に
「情報II」教材は、データサイエンティストを目指す高校生の「大学の先取り」や、データサイエンスに興味のある社会人の「リスキリング」に非常に有用です。実践的な知識、周辺知識、ビジネス・エンジニアリング知識をバランス良く習得できるため、データサイエンスの第一歩を踏み出すための最適な教材と言えるでしょう。情報Ⅱの教員研修用教材は無料でアクセス可能であるため、データサイエンスに興味をもった方は、是非手に取ってみてください。
参考文献
[1] 「情報II(2024)」. 実教出版社. 萩原昌己
[2] 「高等学校情報科「情報Ⅱ」教員研修用教材(本編)」.文部科学省. 参考URL:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00742.html
[3] 「2023年度スキル定義委員会活動報告」. 一般社団法人 データサイエンティスト協会 スキル定義委員会. 参考URL:https://www.datascientist.or.jp/common/docs/10thsymp_skill.pdf