現代ビジネスにおいて、データサイエンススキルは必須となっています。企業はデータ蓄積から一歩進み、データドリブンな意思決定へと移行しています。この流れを受け、データサイエンティストのみならずマーケティング担当者にもデータ分析スキルが求められるようになりました。
一方で、2024年度からスタートした「高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール)」により、高校生にもデータサイエンスを学ぶ機会が広がっています。文部科学省は2025年4月の情報によると、その採択校は1,191校と昨年の1,010校を超え、データサイエンスを学んだ学生が社会に出る流れがより一層強まっていると言えます。
本記事では、DXハイスクール推奨科目である「情報II」の教材内容を現役のデータサイエンティストの視点から分析し、その価値を探っていきます。
本記事のターゲット
- データサイエンティストを目指す高校生・大学生
- データサイエンスに興味がある社会人
- DXハイスクールの内容・データ活用について知りたい方
サマリー

1. DXハイスクール科目「情報Ⅱ」とは
「情報Ⅱ」は、2022年度から高等学校で実施されている新学習指導要領に基づく情報科の科目です。「情報I」が必修科目として基礎的な情報活用能力を育成するのに対し、「情報Ⅱ」は発展的な内容として、データサイエンスやプログラミング、情報システムについてより深く学ぶための選択科目です。
DXハイスクール事業では、この「情報Ⅱ」を中心に、デジタル社会に対応できる人材育成を目指しています。具体的に「情報Ⅱ」では以下の4つの素養を学ぶことができると記載があります。
- 情報社会の進展と情報技術 – 情報技術を創造的に活用する姿勢
- コミュニケーションとコンテンツ – 目的に応じたコンテンツの作成とその発信方法
- 情報とデータサイエンス – 統計的手法や機械学習の基礎操作
- 情報システムとプログラミング – 仕組みやセキュリティを理解し、システムを設計・プログラミングする態度
文部科学省が提供する教材では、これらの内容が体系的にまとめられており、授業での活用だけでなく、独学にも適した内容となっています。特にデータサイエンスに関する部分は、実社会での活用を意識した実践的な内容が豊富です。
一方でデータサイエンティストが必要なスキルは、「ビジネス力」「データサイエンス」「データエンジニアリング」の3つと言われます(データサイエンティスト協会の定めるスキルセット[3]より)。データサイエンティストによっては、ビジネス力に尖り経営によりコミットしていくケースもあれば、データサイエンスを追求し学術論文投稿を目指すケースもあります。ただ、いずれのケースにおいても3つの基礎レベルは抑える必要があります。

以降ではこの「データサイエンス」「ビジネス力」「データエンジニアリング」をどの程度、情報Ⅱがカバーできているのかをそれぞれ考察していきます。
1. データサイエンス
教科書の「情報とデータサイエンス」の内容は大きく8つの章があります。

教科書内では統計処理ソフトとしてR、プログラミング言語としてPythonを演習環境に採用しており、データの信憑性・信頼性に関わる基本用語(ex. 母集団、バイアス)の理解から始まり、データフレーム・データベースの構造やその操作手順(ex. 行削除、重複削除)に至るまで実際のコードも組み込みながら解説されています。
これだけでも十分な内容にも思いますが、Webスクレイピングの方法や、機械学習モデルは「重回帰分析」「主成分分析」「決定木分析」「ニューラルネットワーク」「物体検知」に至るまで扱っています。これらは、ビジネスで活用可能性の高い機械学習手法が網羅されている上、昨今の生成AIの基本構造であるニューラルネットワークにも触れており、十分なカバー範囲と言えます。


実際のビジネスシナリオを想定した実行プログラムコードや表計算ソフト操作も掲載されており、要点を学びつつも実践的な構成でした!
2. ビジネス力
次はビジネス力に係る「コミュニケーションとコンテンツ」の内容です。

前述したデータサイエンスに基づく分析による仮説検証だけでは、ビジネス成果は生まれません。仮説検証の結果を踏まえて、成果を生む施策を実施し、効果検証・改善していく必要があります。
まさに「コミュニケーションとコンテンツ」の内容は、施策の実施・改善の方法についてまとめられています。

施策実施一つを取っても、「企画立案(施策を誰にいつどのように届けるのか)」「制作者向けのオリエンテーション」「構成案・デザイン・プロトタイプ作成」「コーディング」「印刷・出稿」というプロセスが存在します。その全体像の理解と具体的な実施の方法が教科書には掲載されています。
例えば、企画立案にはWho(誰に)を具体化する「ペルソナ作成」が伴います。ペルソナとは施策を届けるお客様像になり、その解像度を上げるべくどのような項目をまとめるべきか記載されています。また企画段階から最終的にお客様に届ける広告出稿媒体の選定基準についても解説されており、コンテンツのカバー範囲も広いと評価します。


やりたいことを具体化し実現するイメージというのは湧きづらいものです。ぜひ、教科書を確認しながら一般的な流れを理解しつつ、現場の業務フローを踏まえた動きが取れるとミスなく成果を上げやすいです
3. エンジニアリング
最後がエンジニアリングに係る「情報システムとプログラミング」です。

特にビジネス志向の方は、「自分で手を動かすことはない」とエンジニアリング力に対して苦手意識を持つ方も多いです。しかし、エンジニアリング力は実際に手を動かさないとしても、施策の実現可能性(フィジビリ)やリスクを抑える上で必要な知識になります。その2つに対して、特に「要求定義をシステム要件に落とし込むシステム設計の知識」や「目的に応じた開発手法の選択とそのリソース・スケジュールの管理知識」の有無が強く影響します。
これから実施しようとしている施策が周囲のシステムやリソースにどのように影響を与えるのか、そこまで解像度が高めることを意識しましょう。そうすれば、あなたも優秀な頼られるデータサイエンティストとして一目置かれるようになります。


会社でも管理職になればなるほどジェネラリストとしての資質が求められ、プロジェクトマネジメントの立場に立つことも多いです。私の尊敬する先輩は、常にお客様視点・ビジネス視点でありながら、その実現手段であるエンジニアリング力にも尖った方でした
最後に
「情報Ⅱ」教材は、データサイエンティストに係る知識「データサイエンス」「ビジネス力」「エンジニアリング」をバランス良く習得できる非常に有用な書籍であることを紹介してきました。ぜひ興味を持った方は、参考文献掲載の情報Ⅱ教科書を手に取ってみてください(教員研修用教材であれば、なんと無料で公開されています!)。
最近は生成AIサービスも登場し、体系的な知識を身につけている方であれば、生成AIに指示出しすることで、すぐに実行に移しやすい環境が整いつつあります。ぜひ皆さんも本書の内容を理解の上、自分のビジネスにまず適用いただければ幸いです。
参考文献
[1] 「情報II(2024)」. 実教出版社. 萩原昌己
[2] 「高等学校情報科「情報Ⅱ」教員研修用教材(本編)」.文部科学省. 参考URL:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00742.html
[3] 「2023年度スキル定義委員会活動報告」. 一般社団法人 データサイエンティスト協会 スキル定義委員会. 参考URL:https://www.datascientist.or.jp/common/docs/10thsymp_skill.pdf