「郵送費がまた値上がりした」「DMの販促費が年々増えて経営を圧迫している」「本当にこのDMは効果があるのだろうか」という悩みを抱えていませんか?
2024年10月に通常はがきは従来の63円から85円へ、定形郵便物も100円以下だったものが110円に値上がりするなど、郵送コストは年々増加しています。月間1万通のDMを送付している企業であれば、はがき1通あたり22円の値上がりにより、年間で264万円ものコスト増となる計算です。
一方で、「長年送り続けているリストだから」「とりあえず全員に送っておけば安心」といった慣習的な理由でDMを送付し続けている企業も少なくありません。しかし、消費者視点では不要なDMに悩まされることが多いように、企業側もコスト効率と顧客体験の両面からDM戦略を見直す時期に来ています。
本記事では、データに基づいた科学的なアプローチで、効果的なDMリスト削減の方法について段階的に解説しますので、DM施策の見直しを検討している全ての方の一助となれば幸いです。
本記事のターゲット
- コスト削減を検討しているマーケティング担当者
- 販促費の最適化を目指す中小企業の経営層・意思決定者
- 小売業・EC事業者を中心に、定期的にDMを送付している企業の方
DMリスト削減の基本アプローチ
段階的な削除対象の設定
削減を精緻に効率よく行うには、マーケティング知識だけでなくデータサイエンスに係る知見が必要になります。
そのため実現工数や運用面を踏まえ、以下の順序で段階的に取り組むことを推奨します:
レベル1:CVRが極端に低い層への送付停止(難易度:★☆☆)
→ 既存データの集計だけで実施可能。まずはここから始めましょう。
レベル2:反応はあるがDM効果が薄い層への送付停止(難易度:★★☆〜★★★)
→ 効果測定の仕組みが必要。レベル1で成果が出たら次のステップへ。
レベル1はレベル2に内包される構造にあります。つまりレベル2まで削減した方が効果は大きいものの、レベル1だけでも大きなコスト削減効果が期待できます。焦らず、一つずつ確実に進めていきましょう。

レベル1:CVRが極端に低い層への送付停止
最も基本的なアプローチは、コンバージョン率(CVR)が著しく低いセグメントへのDM送付を停止することです。以下はEC事業者の仮想データであり、属性ごとのN数(送付数)とCVR(コンバージョン率)を集計した結果です。
例えば、過去1年間のDM送付履歴を分析して、「60代男性・非会員」のセグメントでCVRが0.1%未満・獲得後の平均利益100円であった場合、このグループへ100円以上の販促を打つと赤字になり、DM送付を中止するという判断ができます。
コスト削減の試算例
月間1万通の定形郵便物DMを送付している企業で、反応率0.1%未満の層が全体の20%(2,000通)を占めていると仮定します。
- 削減通数:2,000通/月 × 12ヶ月 = 24,000通/年
- 定形郵便物DM(110円)の場合:24,000通 × 110円 = 年間264万円の削減
実際にはDMを制作費・印刷費を含めると更に大きな削減効果が期待できます。
長年DMを続けている企業には、顧客が既に転居されている・休眠されているなど反応が得られないお客様が含まれている場合があります。従来から継続している企業は、レベル1の施策だけでも大幅なコスト削減につながる可能性があります。
分析手法:クロス集計と決定木
一般に分析軸が少ない場合はクロス集計が用いられます。自社でお客様の属性情報を蓄積していない場合に年代と累積購入金額など、限られた分析軸を表頭・表側に設置して、CVRや利益額を集計する方法です。

一方、お客様の属性情報が多かったり、集計値の閾値が分かりづらい場合には、決定木分析をお勧めします。
決定木分析とは、データを「木の枝分かれ」のように分類していく分析手法です。例えば以下のようなイメージです。

この分析により、過去に反応したかしていないかの分類予測を行い、重要度の高い変数(会員状態、年齢、性別など)の組み合わせが自動的に洗い出せます。Excelでは難しいですが、PythonやRなどの統計ソフトを使えば比較的簡単に実施できます。
レベル2:反応はあるが効果が薄い層の送付停止
次のステップは、一見CVRが高く見える一方で効果が薄い層の特定です。
なぜレベル1だけでは不十分なのか?
レベル1では「CVRが低い層」を除外しましたが、「CVRが高い」からといって「DMの効果が高い」とは限りません。なぜなら、DMを送らなくても購入してくれたかもしれないお客様が含まれているからです。
例えば、20代女性はCVR 5.2%と高い数値が出ているとします。しかし、このセグメントはアプリやSNSを頻繁にチェックしており、DMがなくても購入する可能性が高いかもしれません。これではDMの効果があるとは言えないでしょう。

ABテストによる「真の効果」の測定
ここで登場するのがABテストという手法です。ABテストとは、「施策を実施するグループ(A群)」と「施策を実施しないグループ(B群)」をランダムに分け、両者を比較することで施策の純粋な効果を測る方法です。
例えば、20代女性を以下のように分けます:
- A群(DM送付あり):ランダムに選んだ50%の顧客
- B群(DM送付なし):残りの50%の顧客
この場合、各年代性別の組み合わせにおいて生まれたCVRの差は、DMの効果によるものと言えます。

以下の数表にEC業界を想定したABテストの実施例を示しています。
20代女性の数値をご覧ください。施策を打ったA群のCVRは5.2%と高いものの、施策を打っていないB群のCVRも4.8%と高く、その差はわずか0.4ポイントです。
DMによって、0.4ポイントの上昇、つまり1,000人あたり4人の追加購入が生まれたことになります。平均購入単価が5,000円、粗利率20%とすると、1人あたりの利益は1,000円。DM経由の追加利益は1人あたり4円(1,000円 × 0.4%)となります。
一方、DM費用が1通あたり110円だとすると、明らかに赤字です。このセグメントへのDM送付は停止すべきと判断できます。
ABテスト結果の例(EC業界)
| セグメント | DM送付あり CVR | DM送付なし CVR | DM効果(差分) |
|---|---|---|---|
| 20代女性 | 5.2% | 4.8% | 0.4% |
| 30代男性 | 3.1% | 1.2% | 1.9% |
| 50代女性 | 2.7% | 0.3% | 2.4% |
この分析から、50代女性はDM効果が最も高く(2.4ポイントの上昇)、20代女性は自然コンバージョンが高いためDM効果は限定的(0.4ポイントの上昇)であることがわかります。このデータを基に、コスト対効果の高いセグメントへリソースを集中できます。
「DM送付なし群」のデータをどう得るか
ただ、ABテストはDMを送付しない群を意図的に作る必要がある点で、介入が難しい施策や過去の施策についての検証が難しい点があります。
そのような場合には少し高度になりますが「傾向スコアによる推定」が行われることが多いです。
傾向スコアを用いた効果測定
傾向スコアとは、「その顧客がDMを受け取る確率」を表す指標です。
ABテストのように意図的にランダム分けができない場合(例:既に実施済みの過去のDM施策)に使える手法です。「年齢、性別、購買履歴などが似ている顧客同士」を比較することで、あたかもABテストを実施したかのような分析ができます。
分析の流れ
- 顧客の属性データを基に、DM受け取り確率(傾向スコア)を計算
- 年齢、性別、会員ランク、購買頻度などを説明変数に分類モデルで確率を予測
- 同じような傾向スコアを持つ顧客同士をマッチング
- 例:傾向スコア0.7の「DM送付あり顧客」と「DM送付なし顧客」をペアにする
- マッチングしたペア間での成果指標の差を計測
- ペア間のCVR差分が、DMの純粋な効果に近しい

傾向スコアマッチングはやや高度な手法のため、まずはレベル1(CVR集計)やレベル2(ABテスト)で成果を出し、更なる精緻化が必要になった段階で検討すると良いでしょう。
詳細な実施方法については、別途記事「傾向スコアマッチングの実践ガイド」で解説予定です。
リスト削減時の注意点
効果的なリスト削減を行うために、以下の点に注意しておきましょう。
公平性のある施策の削減はNG
定期サービスを購入するインセンティブとしてお客様に提示している場合、そのインセンティブの停止をお客様自身にお伝えする必要がありますし、特定の属性(年齢・性別・地域など)だけを理由に企業都合でDM送付を停止することは、機会損失やブランドイメージ低下につながる可能性があります。
なお、受注通知や支払完了通知などお客様に提供しなければならない情報の停止は断固としてNGです。
管理の複雑性に注意
セグメントを細かく分けすぎると、管理が複雑になりかえって非効率になります。まずは大きな効果が見込める少数のセグメントから始め、徐々に細分化していくアプローチが効果的です。
相乗効果の影響を考慮
DM以外のチャネル(メール、アプリ通知など)との相乗効果を狙う施策も存在するケースがあります。チャネル間で総補完したコミュニケーションとなっている場合に、お客様へ伝えるストーリーが断絶される恐れがあります。
まとめ
データ分析に基づいたDMリスト削減の手法を踏まえ、成功のポイントを整理してみましょう。
段階的なアプローチで確実に成果を出す
DMリスト削減は、一度に完璧を目指す必要はありません。まずはレベル1(CVRが極端に低い層への送付停止)から始め、成果が出たら次のステップへ。レベル2(ABテストによる効果検証)では、DMの「真の効果」を測定し、より精緻なコスト対効果の判断が可能になります。
顧客体験を最優先に
コスト削減は重要ですが、最終的には顧客体験の向上が目的であることを忘れてはいけません。DM削減によって情報が届かなくなることで不満を感じる顧客セグメントもあるかもしれません。定期的な顧客調査を通じて、施策の影響を多角的に評価することが大切です。
郵送費の値上がりが続く今こそ、DM施策を見直す絶好のタイミングです。本記事が、皆様のマーケティング効率化の一助となれば幸いです。
自社での実施が難しい場合や、より詳しいアドバイスが必要な場合は、お気軽にお問い合わせください。

