ABテストはDMやウェブサイト、メールなどのオフライン/オンラインマーケティング施策の効果を検証するための有効な手法です。しかし、正しく実施しないと誤った結論を導き出してしまう可能性があり、このような「失敗」は避けるべきです。
本記事では、これまで100回以上のABテストを計画・実行してきた私の経験から、ABテストを実施する際に陥りやすい10個のポイントと、それらを回避するためのチェックリストをご紹介します。
最後には毎度チェックするためのチェックシートも用意してますので、ぜひご活用ください
本記事のターゲット
- マーケティング部署の施策担当者
- ABテストを実施している、もしくはこれから始める方
- ABテストの精度を高めたい方
- データドリブンなマーケティングを実践したい方
ABテストの基本と陥りがちな10の落とし穴
1. 有意水準・検出力を動かす

ABテストの結果を評価する際、統計的有意差は重要な指標です。しかし、望む結果を得るために有意水準(p値)や検出力を後から調整することは、科学的アプローチとして問題があります。
回避策:
- テスト開始前に有意水準(一般的には5%)を決定し、途中で変更しない
- 検出力(一般的には80%以上)も事前に設定する
- 小さな差を検出するには大きなサンプルサイズが必要であることを理解する
2. ランダムに分割できていない

ABテストの基本は、ユーザーをランダムに2つ(またはそれ以上)のグループに分けることです。しかし、意図せずランダム化が正しく行われず、実験後に発覚することがありますので注意しましょう。
回避策:
- 分割ロジックが正しく実装されているか技術チームと確認する
- テスト開始前に各グループの特性を比較する(ex. 受注率やクリック率が同等か)
- 他者が思いつきやすい切り口で分割する(ex. 顧客ごとに採番された番号の偶数奇数で分割する)
3. ネガティブ指標をモニタリングしていない

コンバージョン率などのポジティブな指標だけを見て、許諾オフ率や解約率、運用負荷などのネガティブな指標を見落としがちです。施策によってはコンバージョンが向上する一方で、ネガティブ指標が低下し、顧客体験の悪化や社内衝突を招くことも多々あります。
回避策:
- メイン指標とともに、ネガティブな副次指標も設定する
- 短期的な効果と長期的な影響のバランスを考慮する(ex. 許諾オフや解約はその後のお客様との接点が途絶えてしまう)
- お客様やステークホルダーへのヒアリングなど定性情報の取得にも努める
4. サンプル数回収の計画が甘い

必要なサンプルサイズと回収可能期間を計算せずにテストを実施し、十分なデータが集まる前に結論を出してしまうケースは非常に多いです。
回避策:
- テスト開始前に統計的に有意な結果を得るために必要なサンプルサイズを計算する
- 過去のトラフィックデータを基に、必要なサンプルサイズが回収な期間を見積もる
- サンプル数試算ツールを用いて計算する
5. チェリーピッキングする

都合の良い指標を設定したり、良い結果が出た時を選んで報告する「チェリーピッキング」は、誤った意思決定につながります。
回避策:
- テスト開始前にプライマリ指標とセカンダリ指標を明確に定義する
- 複数の指標を測定する場合は多重比較の問題を考慮する
- すべての測定結果を透明に報告し、良い結果も悪い結果も共有する
6. 計測しやすさを軽視する

ABテストの設計において、実際の実装や計測の容易さを考慮せず、理想的なテスト設計に固執すると、実行に移せなかったり、振り返りが困難になります。
回避策:
- テスト設計段階から技術チームやアナリストを巻き込む
- 既存の分析基盤で計測可能かどうかを事前に確認する
- 必要に応じてテスト設計をシンプル化する
7. 表示計測をしていない

ABテストで変更した要素が実際にユーザーに表示されているかを確認せず、単にグループ分けだけで分析を行うケースがあります。施策効果が見られないその原因を追跡していくと「実は表示されてませんでした」の事象もまれに遭遇します。
回避策:
- 各クリエイティブの表示回数を必ず計測する
- テスト開始直後に実際の表示を複数のデバイス・ブラウザで操作し、表示ログを確認する
- 各クリエイティブの対象アカウントを用意し、正常に表示・計測されるか確認する
8. 社内アクセス・テストをカウントしてしまう

開発チームや社内スタッフのテストアクセスがテスト結果に含まれると、実際のユーザー行動とは異なるデータが混入します。
回避策:
- 社内IPアドレスを除外するフィルターを設定する
- テスト用アカウントや特定のパラメータを持つアクセスを分析から除外する
- 可能であれば、テスト環境と本番環境のログを切り分け可能にする
9. テスト期間のイレギュラーを考慮しない

季節変動、キャンペーン実施、競合の動き、システムトラブルなど、テスト期間中のイレギュラーな要因がテスト結果に影響を与えることがあります。
回避策:
- テスト期間中のマーケティングカレンダーを確認する
- イレギュラーな出来事があった場合は、その影響を分析から除外するか、テスト期間を延長する
- 週末/平日の違いや時間帯による変動を考慮し、最低でも1〜2週間のテスト期間を確保する
10. ABテスト後の意思決定ステップが合意できていない

最後の一つは、ABテスト後の意思決定についてです。有意水準5%、検出力80%で有意差が認められたは良いものの、「施策を全展開するのか」「自動化開発を開始するのか」など明確な意思決定ができずにクローズしてしまうABテストを何度も見てきました。必ず、意思決定ステップをステークホルダーと事前に合意しておきましょう
回避策:
- 改善指標・ネガティブ指標について、悪化/改善 × 有意差あり/有意差なし の組み合わせパターンごとの意思決定を事前に合意する(報告日時目安も)
- 意思決定ごとに必要なリソースの確保手順を整理しておく
- 事前合意の議事録をしっかりとる
まとめ
ABテストは、データに基づいた意思決定を行うための強力なツールですが、正しく実施しなければ誤った結論を導き出す危険性があります。本記事で紹介した10の落とし穴を回避し、正しい意思決定に繋げていただけたら幸いです。
参考までに今回の10個のポイントをチェックシートとして一つにまとめました。ぜひ、印刷や資料としてお使いください。
