「生成AIによる作業の効率化は嬉しいですか?」
私は周囲にこの質問を投げかけることがあります。この問いに「Yes」と答えられる人は、自分のキャリアをマネジメントできている可能性が高いと考えています。
技術進化が激しく、「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉も注目される昨今。どのようにして自分の市場価値を高め、充実したキャリアを築いていけばよいのでしょうか。
本記事では、静かな退職時代におけるキャリア戦略について、実体験と名著の知見を基に考察していきます。
本記事のターゲット
- 自分のキャリアについて真剣に考えたいビジネスパーソン
- AI時代に対応したスキルアップを検討しているデータサイエンティスト・マーケター
- 静かな退職を意識しながらも、充実したキャリアを築きたい方
- 副業・兼業に興味があり、収入の柱を増やしたい方
静かな退職とは何か
静かな退職とは、正式な退職はせずに、仕事へのコミットメントを最小限に抑える働き方のことです。
かつて話題になった「社内ニート」「窓際族」「ゾンビ社員」との違いは、与えられた役割は果たしているという点。ただし、それ以上の積極的な介入はしない——それが静かな退職の特徴です。
「本業一筋」に潜むリスク
一方で、「本業でキャリアを積みたい」と全力でコミットする方もいます。しかし、本業の組織のみに依存することにも、リスクが潜んでいます。
- 倒産・リストラリスク:会社都合で突然キャリアが途絶える可能性
- ライフプランの欠如:仕事中心の生活で私生活が犠牲になる
- 市場価値の停滞:社内スキルのみが磨かれ、外部で通用しなくなる
これらを踏まえると、「静かな退職」が問われる中で改めて自分のキャリアが管理できているか見つめ直すことも重要である言えるでしょう。
静かな退職時代に実践したい「3つのキャリア戦略」
では、理想的なキャリアとは何でしょうか。
著名な専門家やビジネスリーダーの著書を紐解くと、以下のような定義が見えてきます。
| 著者 | 著書 | キャリアの定義 |
|---|---|---|
| 山口周氏 | 『人生の経営戦略』 | 持続的なウェルビーイングの実現 |
| 高橋俊介氏 | 『キャリアをつくる独学力』 | 内的動機に基づく主体的なキャリア形成 |
| 出井伸之氏 | 『人生の経営』 | 自分が輝ける場所での挑戦 |
一見異なる定義のようですが、共通する本質があります。
理想的なキャリアとは「自分らしく輝いた人生が安定して送れている状態」
この理想を退職せずして実現するために、私は以下の3つの戦略を提唱します。
| 戦略 |
|---|
| 主体的な学習と挑戦——副業・社内新規事業を通じた自律的な学び |
| 普遍性の高い教養——リベラルアーツとトレンドの先読み |
| ネットワーキング——横のつながりと市場価値の客観視 |
「自分らしく輝く」ためには主体的な挑戦(戦略1)が、「安定して送れる」ためには時代の変化に左右されない普遍的な土台(戦略2)が、そしてその両方を継続的に実現するためには機会を生み出すネットワーク(戦略3)が必要だからです。
それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 主体的な学習と挑戦
静かな退職時代において、挑戦的な学びの場を自ら創出することが大切です。
常に必要とされ続ける技術分野の職に就けることは稀です。
時代とともに技術は進化します。
常に必要とされるには、その時代に応じたニーズを汲み取り、その解決に資する技術を学習し、課題解決に挑戦し続けることが大切です。
「自分のスキルが使い物にならなくなった」「職場で以前のように輝けていない」——そう感じた方は、収入減少を抑えながらも主体的に学ぶ環境を整えることをお勧めします。
収入減少リスクを抑えた「環境の変え方」
1. 副業・兼業
本業を続けたまま新たな挑戦に取り組める点で、副業・兼業はお勧めです。以下のメリットがあります。
- 本業という後ろ盾がある中での挑戦
- 収入が落ち込むことは稀で、基本は副収入が得られる
- 本業では試せないことを副業で試せる

副業を始める際は当然不安がありました。自分の実力がクライアントに求められているものなのか、スキルを提供して成果に結びつくのか——経験したことがない業界だからこそ不安になりました。
しかし、データ活用やビジネスの考え方(顧客視点・利益追求)、マーケティングの方法論といった根幹は大きく変わらず、本業では試せないことを率先して挑戦できました。
2. 社内の新規事業や部署越境
副業・兼業では、トラブル発生時に個人に責任が振りかかる場合があります。それをも回避したい方には、「社内ベンチャーや部署間の越境」がおすすめです。
元ソニーの出井伸之氏も提唱するように、社内であればリスクが低い環境で起業家精神を持った挑戦ができます。

私もデータサイエンスとしてキャリアをスタートし、その後に現場のマーケティング・プロモーションまで自ら手を挙げて実践してきました。挑戦が楽しくなり、プロダクトマネジメントから新規事業立案のプロジェクトまで幅広く経験しています。
2. 普遍性の高い教養と先物キャリア
個別具体的な経験だけでなく、普遍性の高い学びを心がけることで、仮に周囲の環境が変化しても成長曲線がゼロクリアにならない応用力を身につけられます。
同時に、将来のトレンドを先読みした「先物キャリア」の構築ができると市場価値を常に高く維持できます。
歴史・リベラルアーツの学習
山口周氏が重視する「リベラルアーツ」——時代を超えて通用する教養を身につけることが重要です。
- 古典文学や哲学書を読む
- 歴史書を通じて人間の本質を学ぶ
- 芸術や文化に触れて感性を磨く

私は地政学的な書籍をかなり読み込みました。中国史や日本史も含め、歴史を振り返る機会を多く設けています。
面白いのは、恐竜の成り立ちや体の構造なども学びの対象になること。過去の生き物がどのように合理的な意思決定を重ねてきたのかを知ることは、現代の意思決定にも活かせます。
過去の無数の意思決定の系譜をたどることで、我々がどういう新たな意思決定ができるかのサンプルになると考えています。
具体化・抽象化の行き来
個別の経験を抽象化し、他の分野にも応用できる汎用的な知見に昇華することで、普遍性の高い学びに変えることができます。
高橋俊介氏はこれを「チャンクアップ・チャンクダウン思考」と表現しています。
- 経験を振り返ってパターンを抽出する
- 抽象化した原則を他の場面で応用する
- 「なぜ?」を繰り返して本質を探る
- 複数の事例から共通点を見つける

多様な業界でコンサルティングを行う中で、共通するフレームワークがあることに気づきました。
どの業界でも、まず売上・利益というKGIから分解してKPIツリー構造を整理します。BtoCなら「顧客数×顧客単価」、BtoBなら「契約企業数×企業単価」——パターンは大きく異ならないのです。
KPIツリーを描いた後は、各要素を競合と比較して劣っている点を特定。例えばSimilarWebなどのツールを使い、他社の訪問数と比較してクライアントサイトの相対的な位置を把握し、修正すべきKPIを見定めています。
戦略3:人的ネットワーキング・市場価値の客観視
戦略1・2をより強固にするのが、戦略3のネットワーキングです。
社内外で横のつながりを重視した人的ネットワークを構築することで、自らを俯瞰的に見て、未然にリスクやチャンスを把握できるようになります。
社外ネットワークの構築
業界を超えた多様な人たちとの関係性を築き、長期的な信頼関係を重視することが重要です。
- 業界イベントや勉強会に参加する
- SNSを活用して情報交換する
- 異業種交流会に参加する
- 読んだ書籍の著者にメールを送る

私の場合、機械学習やデータ分析に関わるグローバルな勉強会・研修に参加する機会がありました。
そこで学べたのは「データをどう分析するか」という技術的な話以上に、データを分析すべきシチュエーションや、そもそもデータ分析とは何かという俯瞰的な視点でした。
さらに業務を超えて、人生でどう捉えるべきかという視座も得られました。関わりの少ない方と接することで、より抽象的に自分を振り返る機会になっていると実感しています。
市場価値の客観視
肩書きよりも、市場で自分がどれだけ評価されているかを重視し、自己評価を相対化することが重要です。
- 自分の能力や経験を客観的に評価する
- 市場での自分の価値を定期的に測定する
- 外部の人からのフィードバックを積極的に求める

メディアに取り上げられたか、実績が世に公開されたか——これも重要ですが、私がより重視しているのは以下の考え方です。
市場価値 = 関わったドメインの数 × 各ドメインでの成果貢献額
多くのドメインに接することで、多くのエンドユーザーを複数のタッチポイントで喜ばせることができる。それは「社会を幸せにしている」という尺度になると考えています。
キャリアを築けている人はAIを歓迎する
冒頭の問いに戻りましょう。
「生成AIによる作業の効率化は嬉しいですか?」
AIは課題を解決するツールの一つでしかありません。リターンが大きいから注目されているだけです。
主体的に挑戦・情報吸収し、普遍性の高い知見を持って発想に変えられる人は、人生に収まらないくらい「やりたいこと」が多いはずです。
AIにより効率が上がったことで——
- 「あれもできる、これも挑戦できて嬉しい!」
- 「自分には関係ないと思っていた○○ができるかも!」
と、ポジティブな解釈に落ち着くことができるのです。
まとめ:明日から始める最初の一歩
3つのキャリア戦略の振り返り
理想的なキャリアを「自分らしく輝いた人生が安定して送れている状態」と定義すると、以下の3つの戦略が重要でした
| 戦略 |
|---|
| 主体的な学習と挑戦——副業・社内新規事業を通じた自律的な学び |
| 普遍性の高い教養——リベラルアーツとトレンドの先読み |
| ネットワーキング——横のつながりと市場価値の客観視 |
私のキャリア観を変えた一言
私自身が渡米しGAFAM社員とランチをしていた時に、かけられた一言があります。
「Are you having fun?(君は楽しいか?)」
何気ない挨拶だったのでしょう。でも、私はすぐに「楽しい」と答えられませんでした。業務で実績は出せている。でも、それが人生として楽しいのか——そこまで考えたことがなかったのです。
この問いをきっかけに、「一つの企業で成果を残す」という考え方から、可能性の幅を広げていく方向へキャリア観が変わりました。
読者への提案
日本は仕事への熱意が世界最低水準と言われています。でも、それを変えられるのは自分だけです。
この記事を読んで「何か始めてみよう」と思った方へ——まず行動してください。
学んでから動こうとすると、いつまでも準備が終わりません。学んでもその通りにいかないのがビジネス。行動したものが勝者なのです。
参考文献
1. 山口周『人生の経営戦略——自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』(東洋経済新報社)
2. 高橋俊介『キャリアをつくる独学力——プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』(東洋経済新報社)
3. 出井伸之『人生の経営』(小学館新書)

